
上陸許可基準とは?基礎から理解する
上陸許可基準は、外国人の方が日本に入国(上陸)するときに、その在留資格で入ってよいだけの最低要件を満たしているかを確かめるための基準です。法的には、入管法(出入国管理及び難民認定法)第7条1項2号を受けて定められた法務省令(通称「上陸基準省令」)が根拠で、各在留資格に応じた客観的な要件(学歴・職歴・報酬の日本人同等性・受入体制・事業所の実在性・支弁能力など)が並んでいます。
実務上は、在留資格認定証明書(COE)交付申請の審査や、空港の上陸審査で参照されます。上陸許可基準に当てはまらなければ、資格に形式上は当てはまっていても不許可になり得ます。
どの在留資格に適用されるの?―「二の表」と「四の表」
入管法の在留資格は別表第一で整理され、そのうち二の表(就労資格・上陸許可基準あり)と四の表(非就労資格・上陸許可基準あり)が上陸許可基準の直接対象です。代表例は以下のとおりです。
- 二の表(就労・基準あり):高度専門職、経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、教育、技術・人文知識・国際業務(技人国)、企業内転勤、介護、興行、技能、特定技能 など。
- 四の表(非就労・基準あり):留学、研修、家族滞在 など。
参考:一の表(三の表)や五の表(特定活動)の多くは「上陸許可基準」の直接対象ではありませんが、告示・個別指定等で具体要件が置かれることがあります。最新の公式資料は入管庁サイトで随時確認が必要となります。
「資格該当性」「基準適合性」「相当性」の関係を手厚く解説
審査は三層構造で考えるとすっきりします。
資格該当性(まず“どの資格か”が合っているか)
別表第一の定義(活動内容)に合致しているかを確認します。たとえば技人国なら、「自然科学・人文科学の知識を要する業務」に契約に基づいて従事することが前提です。公式ページや資料で示される定義・範囲に合うかを文字通り確認します。
- 例:マーケティング職を技人国で申請するなら、人文科学の知識を要する企画・分析・海外取引等の専門的職務として設計し、単純作業中心の配置にならないよう職務記述書(JD)で具体化します。
基準適合性(上陸許可基準という“客観要件”を満たすか)
ここが上陸許可基準の本体です。学歴や実務年数、報酬の日本人同等性、受入機関の実在・継続性、直前1年以上の海外勤務(企業内転勤)、事業所の確保・事業規模(経営・管理)、支弁能力(留学・家族)など、省令が列挙する要件を証拠書類で一つずつ立証します。
- 例:企業内転勤は「転勤直前1年以上海外の事業所で技人国相当業務に従事」+「報酬は日本人同等以上」が典型要件です。辞令・在職証明・同等賃金の根拠まで一式で整えます。
相当性(個別事情を踏まえて“社会通念上、妥当か”)
最後に、虚偽や不自然さがないか、制度趣旨に沿っているかという評価です。書面は足りていても、実態が単純労働だったり、給与だけ高く実体がない、急拡大で体制が脆弱…といった場合、「相当性」でつまずきます。相当性は条文の言葉として直接現れにくいですが、入管庁の資料やQ&Aの運用で具体化されます。
ポイント:
- 資格該当性=「看板が合っているか」
- 基準適合性=「基準の定量条件を満たしているか」
- 相当性=「全体として筋が通っているか(虚偽・ミスマッチがないか)」
3つのうち一つでも欠けると不許可リスクが高まります。
主要在留資格ごとの“基準適合”の勘所と書類設計
ここからは二の表・四の表の代表例を取り上げ、どの要件を、どの書類で、どう説明するかを具体化します。
技術・人文知識・国際業務(いわゆる「技人国」)
- 何が基準か:
① 専攻と職務の関連性または相当の実務経験、② 報酬の日本人同等性、③ 受入企業の実在性・継続性等。 - 提出の勘所:
- 学位証明+成績証明を職務の中身(JD)と橋渡しする。専攻科目・研究テーマ・インターン実績をシラバス等で見える化。
- 同等報酬は賃金規程・給与テーブル・同職種の実例など客観資料で裏付け。
- 会社は登記・決算書・事業内容・従業員一覧で継続性を示します。
- NG例/回避策:
- 専攻不一致(例:文学専攻→単純な軽作業中心)は不許可リスク→職務再設計(海外向けコンテンツ編集・市場調査等、人文領域での専門性を強化)が必要になります。
企業内転勤
- 何が基準か:
転勤直前1年以上、海外の本店・支店等で技人国相当の業務に継続従事+日本人同等報酬。 - 提出の勘所:
グループ関係図/組織図/辞令/職務内容証明と、同等賃金の根拠(給与規程・等級表)をセットで示します。
経営・管理
- 何が基準か:
① 事業所の確保、② 事業規模、③ 事業の継続性・安定性。 - 提出の勘所:
賃貸借契約書・現地写真・看板、登記・資本金払込証明、事業計画(収支・販売計画・雇用計画)、契約書・見積・請求など実働証拠。 - 改正動向(注):
入管庁は2025年8月に「経営・管理」の上陸許可基準見直し案を公表しています。審査の適正化に向けた基準手当が示されています。正式施行前後の運用は最新情報を要確認です。
留学(四の表)
- 何が基準か:
受入機関の入学許可、学費・生活費の支弁能力、修学の実体(出席・学業)。日本語教育機関は法務省告示に基づく基準が設定されています。 - 提出の勘所:
入学許可書/学費支弁計画・残高/送金記録、日本語教育機関なら告示校の要件に沿った説明を示します。
家族滞在(四の表)
- 何が基準か:
家族関係の実体(婚姻・親子)と生計維持能力。扶養者(本体側)の在留状況も勘案されます。 - 提出の勘所:
婚姻・出生証明(翻訳付)、収入・住居、同居予定などを丁寧に示します。
書類は“条文順”に作る:チェックリストと雛形作法
条文順チェックリスト(共通)
- 資格該当性:在留資格の定義に沿って活動内容を言語化しているか。
- 基準適合性:
- 学歴/実務年数の要件
- 報酬の日本人同等性(規程・テーブル・比較実績)
- 受入体制(事業所・組織・監督者)
- 直前1年の海外勤務(企業内転勤)/事業規模・投資(経営・管理)/支弁力(留学・家族)など、省令要件の一つひとつを証拠で裏付け。
- 相当性:計画が自然で実行可能か。単純作業になっていないか、給与だけ突出していないか、体制が脆弱でないか。入管庁の資料やQ&Aの示す運用・審査に合わせ、理由書で補強。
雛形の作り方(例:技人国・新卒)
- 職務記述書(JD):
- 任務:市場調査→分析→英語レポート→海外向け販促のPDCA
- 知識:経営学・統計・国際マーケティング
- 成果指標:KPI(目的×事業モデルのよって異なる)
- 学歴との関連整理表:科目→学んだ内容→職務のどこで活用
- 同等報酬性:賃金規程・等級・同職種の支給実績
- 会社の実在性:登記・決算・主要取引先・オフィス写真
ポイント:
職務記述書(JD)はKPIを明確にすることで、「専門的な知識・技術を要する業務」であること(資格該当性)、成果が測定可能で、実務が単純作業に陥っていないこと(相当性)を伝えやすくなります。
よくある不許可パターンと改善の道筋
- 専攻不一致・実務年数不足(技人国)
→ 職務再設計(専門性を要する業務配分へ)。必要なら在留資格の見直しも検討。 - 同等報酬の根拠が薄い
→ 規程・テーブル・同職種実績、求人票など第三者的資料で補強。 - 事業所の実在性が弱い(経営・管理)
→ 常駐性・継続性を示す証拠(固定電話・看板・契約書・稼働写真・雇用計画・見込み売上)。 - 支弁・出席に不安(留学)
→ 銀行残高・送金計画・後見人の収入証明、学校側の指導・出席管理体制。 - 家族関係の実体疑義(家族滞在)
→ 婚姻・交流の証跡、同居計画、生活費の根拠を積み増し。
COE(在留資格認定証明書)~査証~上陸審査の流れ
- COE交付申請(国内の入管局):受入側または取次行政書士が提出。ここで上陸許可基準の適合が審査されます。
- 在外公館での査証申請:COE・旅券等を持って大使館・総領事館へ。
- 空港で上陸審査:COE+査証で審査を受け、上陸許可・在留カード交付(対象者)。いずれの段階でも、基準の充足状況は参照され得ます。

ステークホルダー別の実務ポイント
企業人事(技人国/企業内転勤/特定技能/経営・管理)
- 採用決定前に基準表突合(専攻・実務・報酬同等性・事業所)。
- 配置計画と育成計画を文章化し、単純労働化防止を明示。
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大学・専門学校(留学)
- 支弁計画の妥当性と出席管理体制を説明可能に。日本語教育機関は告示基準の遵守・報告体制を整備。
本体在留者の家族帯同(家族滞在)
- 家族関係の実体・生計維持を丁寧に。扶養者側の在留状況・収入・住居もセットで。
9. 代表的な条文ポイントを“イメージ”で暗記する
- 技人国:専攻と職務の関連/相当の実務経験+日本人同等報酬。
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- 経営・管理:事業所確保+事業規模(雇用・投資等)+継続性。
👉経営・管理ビザとは?要件・申請手続き・不許可回避のポイントまで徹底解説【2025年最新版】 | BEGIN行政書士事務所 - 留学:入学許可+学費・生活費の支弁+修学の実体(告示校の要件等)。
- 家族滞在:家族関係の実体+生計維持能力。
「相当性」を深掘り:紙は揃っても落ちる理由、通すコツ
なぜ“相当性”が問われるのか
上陸許可基準は定量・定型の要件を中心に据えますが、実社会のケースは多様です。そこで、書面の数合わせでは見抜けない実態の妥当性を評価するために「相当性」の視点が加わります。入管庁の在留資格ごとの資料やQ&Aの運用で具体化されます。
相当性を上げる“理由書”のコツ
- 誰が(学歴・経歴)/どこで(実在する受入機関)/何を(専門性が必要な職務)/いくらで(同等報酬)/どうやって(体制・計画)を、省令要件の順番でストーリー化します。
- 弱点の手当:専攻と職務の距離がある場合は、補完教育・OJT計画・実務実績で埋める。
- 第三者性:賃金テーブル・契約書・シラバス・写真・客観データを多用し、主観に依らない形で裏付けます。
ケース別の相当性強化例
- 新設会社の経営・管理:
立ち上げ直後で売上が薄い場合は、資金計画・顧客候補とのコミットメント、常勤雇用の予定を具体化。オフィスの占有実態(常駐性・設備)も写真で示します。 - 留学の支弁不安:
後見人の安定収入の証明・定期送金計画、学校の出席管理体制で担保。 - 家族滞在の婚姻実体:
婚姻・同居の証跡(写真・通信履歴・共同生活の証明)と、居住・生計の実現可能性。
改正・運用の最新動向に強くなる
入管制度は運用明確化や省令改正が随時あり、古い情報のままではリスクとなります。たとえば経営・管理は2025年8月、上陸許可基準見直し案がパブリックコメントに付されました。改正の趣旨・要点を押さえ、事前設計を見直すのが安全です。
👉経営・管理ビザの要件が厳格化へ|資本金3,000万円以上、常勤職員1名雇用など4つの変更点を解説
よくある質問(FAQ)
上陸許可基準の一次情報はどこで読めますか?
e-Gov法令検索の「出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令」が本文です。入管庁の在留資格ページや明確化資料、Q&Aも重要です。
在留資格の変更・期間更新でも上陸許可基準は見られますか?
原則、当該資格の基準適合が確認されます。特に留学→技人国など初回就職の移行時は、専攻・職務の関連や研修計画まで実質が見られます。
技人国で新卒採用。専攻と職務に距離があり心配です。
職務の再設計(専門性の高いタスク配分)、学修との接点資料(シラバス・卒論要旨等)、研修計画で“関連性”を構築しましょう。
採用企業と内定者で認識もあわせる必要があります。
企業内転勤で、海外勤務が11か月しかありません。
省令は「直前1年以上」を要件とするため、不足は基本的に難しいです。代替の在留資格選定や、要件充足後の再申請が現実的です。
経営・管理で自宅兼オフィスは認められますか?
「事業を営むための事業所」としての実体(占有・常駐・設備・動線)が鍵です。入管庁の明確化資料を参照し、継続的事業の証拠を積み増します。
留学での支弁は奨学金のみでも大丈夫ですか?
金額・支給期間・使途により異なります。学費と生活費をカバーできる裏付けを提出しましょう。日本語教育機関の場合は告示基準の管理体制と併せて説明します。
まとめ:三層を“同時に満たす”設計が最短距離
- 改正や明確化が続く分野は最新版を必ず確認します(例:経営・管理の見直し案)。
- 資格該当性で活動の看板を合わせ、基準適合性で客観条件を一つずつ満たし、相当性で実態の妥当性を仕上げます。
- 代表資格(技人国・企業内転勤・経営管理・留学・家族滞在)は、定義ページ/省令本文/明確化資料を条文順に読み込み、証拠資料を配置します。
✅ 出入国管理関係法令等
出入国管理関係法令等 | 出入国在留管理庁
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